2017年01月12日

プラセボと鍼@ サイモン・シンの「代替医療解剖」

久しぶりにサイモン・シンの「代替医療解剖」を読みました。何年か前に話題になった本なのですが、その内容は大雑把に言うと、「鍼治療の効果はプラセボに過ぎない」と言うものです。我々、鍼治療に関わるものには「困った」書物でした。が、私は全く気になりませんでした(笑)。翻訳の問題なのか変な気合が感じられてなかなか面白い本です。
いろいろ丁寧に説明されていて、特にプラセボの概念については勉強になりました。
ここで簡単な例でプラセボについて説明すると、『ある人が風邪をひきました。たいした風邪でもなかったので、お医者さんが本当の薬ではなく、デンプン玉か何かの「偽薬」を患者さんに渡しました。本当の薬だと思い込んで偽薬を飲んだ患者さんの風邪は不思議にも本当の薬を飲んだかのごとく治ってしまいました』と言う現象をプラセボ効果と言います。古来知られている現象でありながら、未だにそのメカニズムは完全には解明されていないようです。
さて、ここで「代替医療解剖」中の私が興味を持った記述をまとめてみると、

⭕毛沢東の言葉「漢方医療を奨励するべきだと言うことは確信しているが、個人的には信用していない。私は漢方の治療は受けない。」→毛沢東は当時の中国の医師不足を、漢方医で間に合わせようとしていたらしいです。→これは、あまり「話しの本筋」には関係ないのですが、「毛沢東の根性」が私的に非常に気に入りました(爆笑)。
○プラセボとは、単に症状が治まるだけでなく「生理機能に直接影響を及ぼす」、「プラセボ効果はときに劇的なものになる」、しかし、そのメカニズムについては有力な仮説はあるものの結論は出ていない、薬などの効果にもプラセボは含まれている、などプラセボの紹介。
○「鍼の効果もプラセボではないか」という疑問に対して、WHOが臨床試験のデータをもとに分析した結果2003年に発表された報告書では、「鍼は九十一の症状について治療効果のあることが証明された、または示されていると結論」した(嬉)。→WHOは鍼治療の効果を認めた。
○しかしながら、臨床試験の臨床試験に課すべき水準を低く設定したために信頼するに足りない結果の影響を受けたことと、中国で行われた多数の臨床実験の結果に対する疑惑のために、報告書の信用性は低いとされた。
○WHOの報告書の信用性が低かったため、世界各地に散らばる研究者たちが「WHOの失敗を補う」と言う仕事に乗り出した。その中でも、もっとも有名でもっとも信頼されているのが「コクラン共同計画」である。
○その結果、「コクラン共同計画の系統的レビュー」によって、鍼の効果のほとんどがプラセボ効果である、と結論された。(悲)→コクランでは鍼治療の効果が否定された。
○その後ドイツで行われた「メガ・トライアル」によっても、鍼の効果はプラセボとほぼ同等、または、ごくわずかに成績が良い、と言う結果に終わった。(悲)→メガでも鍼治療の効果がほぼ否定された。
○以上の結果から、鍼の効果はプラセボにすぎないという可能性が高い(悲)。
⭕「医療におけるプラセボ効果はきわめて強力であり、疑いようもない影響を及ぼし、鍼という治療法はきわめてプラセボ反応を引き出しやすい」→サイモン・シンの見解。

以上、まとめてみましたが、どうでしょう?散々な言われようですね(笑)。
まず、「毛沢東」。すごいですね。まあ、しかし当時の中国では東洋医学は完全に廃れていたという歴史を考えれば無理もないです。おそらくまともな治療のできないようなレベルの先生が大量に動員されたのではないでしょうか。この時代の中国国内での東洋医学の断絶が、今日の「西洋医学よりな中医学」の元になったのだと思われます。明治のころの日本の偉い陸軍医にもこんな感じの人がいたような記憶があるのですが、今は名前が思い出せません。
次にプラセボについてですが、一般的にはプラセボ効果とは「偽薬を飲まされて治った気にさせられている」「治った気がしているだけで治っていない」状態を指していると思うのですが、実はちょっと(だいぶ)違います。プラセボ効果は、「気のせい」の次元を超えた明らかな治癒効果をあらわすことがあるということを知るべきです。このことは、同書にも詳しく書かれているので、ご興味のある方はご一読ください。よく読むと分かるのですが、この著者はプラセボ効果を相当重視しているようです。そして、鍼という治療法は「きわめて」プラセボ反応を引き出しやすい、とも述べています。つまり、一見「鍼不要論」のようでいて、実は「鍼の可能性」を説いた書であると見ることもできるわけです。もっとも著者は現時点でのプラセボ効果の医療への利用については反対のようですが…
私自身は、「プラセボ効果であれ何であれ治ればよい」と考えておりますので、ある意味どうでも良いのですが、やはり西洋医学・西洋科学に基づいた考えでは、今のところメカニズムの解明されていない現象を治療に用いるのはまずいのでしょうね。確かに、プラセボに依存すると、「治療効果が読めない」「何でもかんでもプラセボだといい加減な治療法が蔓延する」などのデメリットはあるでしょう。それはそれで非常に良くないのは私にもわかります。しかし、実際には病院でもらった薬の効果のうちの何割かはプラセボであり、また、そのプラセボ効果の現れ方も服用する個人によっていろいろであるのが現実です。実際には薬が全く効いていないのにプラセボで治るという人もあれば、プラセボは全く影響せず薬の効果だけで治る人もあるでしょう。また、薬の効果が全くなかった場合は、薬効もプラセボもなかったわけです。おそろしいことにプラセボには、「副作用のプラセボ」もあるので本来の薬効とプラセボ効果との分別は非常に難しいのです。どっちにしてもプラセボ効果から逃れられないならば、プラセボを最大限に利用するほうが、治癒率も上がって良いのではないか、とも私は思っております。「意図的に高確率でプラセボ効果を引き出す」ことができれば、どんな治療法よりも素晴らしいと思いませんか?実際、その方向に進んでいる医療機関やお医者さんはすでにいるようです。
と言うように、私は「プラセボ効果」に大きな可能性を感じている者なのですが、それはそれとして、この「代替医療解剖」という書物の内容には一つ重大な疑問があります。
それは、鍼効果とプラセボ効果の臨床効果の「比較の方法」です。薬と違って鍼にはプラセボを起こすための「偽薬」がないのです。そこで、先ほどの内容のまとめに記した、「WHO」「コクラン」「メガ」のどの比較においてもプラセボ群では「偽薬」の代わりに「偽鍼」という方法がとられているのです。比較に用いられた「偽鍼」には2種類あって、1つは、「経穴(ツボ)にごく浅く鍼を刺す」もう1つは「経絡から外れた場所に鍼を刺す」と言う方法です。これでは全く比較調査にならないのは、当院で治療を受けた経験のある方には分かると思います。
続く
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posted by 枇杷 at 01:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 鍼灸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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